岡山県倉敷市の水島港で昨秋見つかったクジラの死骸が全身骨格の標本として生まれ変わり、市立自然史博物館で展示されている。全長11メートル超は同館最大の収蔵品。全身がほぼ完全な形で残っており、フロアを独占する圧倒的な存在感で来館者を驚かせている。
クジラは昨年9月、千葉県から水島港に入ったタンカーの船体に引っかかる形で見つかった。すでに死んでいた。
静岡県の業者が1年がかりで骨格標本を完成させた。全長11・67メートル。頭だけでも長さ3・1メートル、重さ180キロを誇る。
倉敷市中央2丁目の市立自然史博物館の展示室内に入ると、骨から発する干物のような塩のにおいが鼻をついた。施設3階の特別展示室は端から端までが10メートル余り。全体が入りきらず、尾ひれの一部は切り離して3階から2階への階段の頭上に展示してあった。
岡山理科大と国立科学博物館が中心となって総勢約70人で解剖調査を進めた結果、太平洋沖で暮らすヒゲクジラの一種、ニタリクジラの若いオスであることがわかっている。
ただ、ヒゲクジラ類の特徴の器官で、歯の代わりになる上あごの「ひげ板」は失われていた。そのほかに大きく欠損している箇所はなかった。頭や胸椎(きょうつい)などには、タンカーとの衝突時に生じたと思われる骨折の痕が見てとれる。
また、胸ひれの骨は4本の指が確認できるほか、小さな骨盤も残っている。哺乳類として太古の昔に陸上で暮らしていたクジラの祖先が、海の中での生活に合わせて進化した過程がうかがえる。
ハート形の心臓は重さ28キロ、左目は直径10センチ。骨格以外にも展示物は驚きの連続だ。
この企画展では、別のクジラの胃から出てきた大量のプラスチックごみも展示している。食品の容器など、我々が日常生活で使うものばかり。これらが海の生物の生態系ばかりでなく、私たちの生活も危うくする恐れがあることを訴えている。
奥島雄一学芸員は「クジラも人間も脊椎(せきつい)動物の仲間。大きさへの驚きに加え、陸と海、太平洋と瀬戸内海がつながっていることを実感して環境保護への気付きの機会になれば」と話している。
企画展は12月3日まで。問い合わせは同博物館(086・425・6037)。(小沢邦男)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル